ボナミの本
せかいのなまえ
「せかいのなまえ」2017年11月3日(金)発行 5,500円(税込) 210mm × 105mm
表紙絵/三木葉苗 題字/三木咲良 詩/三木葉苗 写真/杉山聡 発行者/杉山聡 発行所/Bonami
ブックデザイン・活版印刷・手製本/Bonami
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「せかいのなまえ」と「ひとつぶのうみ」 たった二篇の詩をおさめた、蛇腹折りの本
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この本は、カトリの生と、そして死がなければ、生まれなかった
この本ではなく、カトリのやわらかい身体が
今も私の手にあったなら、どんなに幸せだろうか
生も死もひとつづきの自然であり、良いも悪いもない
そうわかっていても、私は、私が死ぬその日まで
カトリの死が悲しい
「せかいのなまえ」は、カトリの死から2ヶ月後に書いた詩だ
「ひとつぶのうみ」は、そのちょうど一年後
「せかいのなまえ」という本をつくります、と発表してから、一年かかってしまった
一年が必要だった
どちらの詩も、一言一言を選び、並べていくようにできたのではなく
詩の全容が、静かに心の底に着地したようだったから、その一瞬のことは良く覚えている
私にとって、詩はいつもそんなふうだ
詩の中で、時は流れない 一瞬か 永遠か
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さいしょに あなたが わたしを よんだのだ
詩を書いた時、「わたし」は私で、「あなた」はカトリだった
少なくとも、私の中ではそうだった
かたちを持たない言葉が、夫の手で刷られ、綴じられて、本になる
本を手にして、私は初めて、外側から私の言葉を受け取る
あらためて受け取ったその言葉は、どうしてか、「わたし」と「あなた」が逆転して感じられた
「わたし」になったカトリが、私を「あなた」と呼ぶ
どうしてか、どうしても、そのように受け取れて、
ページをめくりながら、どうしようもなく、私は泣いた
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一瞬を 繰り返す
本の内容が決まる前に、この本を「蛇腹製本」にしたいと言い出したのは夫だった
最初、私は反対した
その製本方法が気に入らないのではなく、作業の難しさから、夫にかかる負担が大き過ぎると思った
印刷と製本という作業に入ったら、私はほとんど役に立たない
けれど、夫はどうしてもそうしたいと主張した
本が完成して、私は、この本はこのかたちでしか在り得なかったと知った
言葉や絵が、私にとっての表現であるように、
夫は、本のかたちに、そのひとつひとつの作業に、自分の思いを表している
表紙を開き、読み、最後のページを閉じる、そこからまた本を開く、読み、最後のページを閉じる、はじまりに帰る・・・
蛇腹本には終わりがない
私たちの一瞬を繰り返す
繰り返し 繰り返し 「わたし」と「あなた」を行き来する
いつか、「わたし」と「あなた」が同じになるまで