アトリエの日々
路地裏の蕾たち
いま私の隣で眠る“つぼみ”という名の猫は、浅草のビルとビルの隙間で保護された。
はじめて訪れたその場所は、田舎暮らしの私には想像を超えて息苦しかった。
そこから見える空は、ひたすらに遠かった。
でも、それは私個人の弱さがそう思わせただけかもしれない。
ビルとビルの隙間。ここが、小さな命を守ってくれた場所なのだ。
はじめてつぼみを知ったのは、6月のはじめ。
だいぶ具合の悪くなり始めたカトリに添いながら、twitterを流し読みしていた真夜中。
あるリツイートに目がとまった。
リンク先のブログの主が誰かもわからぬまま読み進めると、
そこには、カトリと同じ猫白血病ウィルスに感染してしまった仔猫が1匹。
薄汚れた小さなからだで箱の隅にうずくまる目が、
カトリにそっくりな気がして、涙が止まらなかった。
猫白血病ウィルス感染症はウィルスで伝染する病気。
仔猫が感染すると、その影響は大きく、長く生きられる可能性はとても低い。
着実に弱っていくカトリの傍らで、私は仔猫の行く末に震えるような気持ちになりながら、
それでも、カッちゃんが元気ならば、ふたりはいい友達になれたかもしれないと思わずにいられなかった。
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カトリを看取り、さみしさと悲しみに暮れる日々につぼみのことを忘れた7月半ば。
再びあのブログがリツイートされたのを見つけた。まだ里親が見つからずにいる。
ブログの中に書かれていた言葉「長くは生きられないかもしれない命… 」
カトリを見送ったばかりの私には、重い現実味をともなって胸の奥にずしりと沈んだ。
このとき、“命の終わり”は私にとって近すぎるところにあったのだ。
だからこそ、いてもたってもいられなかったのかもしれない。
少しでも早く少しでも長く、安心して幸せを感じて生きてほしい。
そう思う気持ちを止めることができなかった。
その瞬間に私たちは、つぼみの家族になることを決めた。
いつか来る終わりを憂うことよりも、いつだって「はじまり」のほうがすごいんだ。
出会って家族になる奇跡、それが、すべて。
そうでしょう?カッちゃん。
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ブログの主を確認し、里親希望のメールを送った先は「ギャラリー・エフ浅草」
つぼみに出会い、エフのIzumiさんに出会い、エフに集うあたたかい人々に出会った。
猫が結んだ縁で、私たちは今、エフの蔵という特別な空間に
『さくらとカトリ』を展示させていただいている。
音も光も時間までも遮るような、蔵独特の優しい静けさの中で、さくらとカトリの会話は
いっそう深く響き、まぼろしのようにやわらかな気配となって私を包み込んだ。
自然と涙が溢れ、カトリとつぼみが、私をこの場所へ連れて来た。
そう感じた。
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ビルとビルの隙間の空気の薄い暗がりで、つぼみはひとり、どう過ごしていただろう。
好奇心旺盛で、遊び好き、おもちゃ好きのやんちゃなつぼみ。
気が強く、素直じゃないけど、さみしがりやのつぼみが、ひとりぼっち。
でも、そこにはもうひとつの蕾が存在した。
つぼみを保護した路地裏で、エフのIzumiさんが撮った写真。
この世界には、誰にも見つけられずに道端で絶える命もある。
けれど、言葉を持たない小さな命たちが
その存在だけで、互いの孤独を癒しあい、語らう一瞬も必ずあるはずだ。
この地上には、誰に気づかれなくとも、光り輝く語らいが
星々の瞬きのように存在している。
私は、そう信じたい。
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『路地裏の蕾たち』
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カトリを亡くして、私は消え入りそうに生きていた。
親しい人々をとても心配させた。
いつ、どうやって起き上がれたのかわからない。
果たして、今もきちんと起き上がれているのか、わからない。
カトリのいた窓辺に、今はつぼみがいて
同じ景色を見ている。
カトリを呼ぶのと同じ声で、つぼみと呼ぶ。
大好きだよ、と言う。
そういう日々の中で、
命は永遠なのだと思う。
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つぼみ
せいいっぱい愛して、せいいっぱい生きよう。いっしょに。
Bonamiの新しい家族を、どうぞよろしくおねがいします!
つぼみの名付け親、保護主。ギャラリー・エフ浅草 Izumiさんのブログ。保護に至る経緯など。
http://ginji1124.exblog.jp/22875896/
つぼみを預かり、根気づよく人の愛を教えて下さった福猫舎、犬班Aさんのブログ。
つぼみがすぐに私たちを受け入れてくれたのは、犬班さんの深い愛情のおかげ。
http://s.ameblo.jp/311fukunekoya/entry-12159206245.html
福島県郡山市で飯館村に取り残された猫たちの保護活動を続ける福猫舎さんから
震災・原発事故から5年経った今の問題について。緊急の呼びかけ。ぜひ、お読みください。
http://ameblo.jp/311fukunekoya/entry-12208445266.html
2016-11-01 | Posted in アトリエの日々 | Comments Closed