アトリエの日々
おひろめの日
先日、アトリエのおひろめ会を開きました。
ごく内輪だけの、ささやかなお食事会。
普段は静かな夜のアトリエに、小さな明かりと宴の輪が広がります。
わいわい賑やか、皆想い想い時を過ごします。
こちらは活版印刷機「Adana-21J」。
海外では「プライベート・プレス」として趣味やアートの世界にも愛好家が多く、
「手フート」「手きん」などとも呼ばれる手動の活版印刷機です。
金属の活字を一字一字拾って組む「活字組み版」や、
デザインをそのまま製版した、「樹脂(亜鉛)凸版」などを使って印刷することができます。
本体上部にある丸いインキ盤に、ヘラでよく練ったインキを塗り、
手前のレバーを上下させることで、ゴムローラーが転がり、版にインキが付き印刷されます。
活版印刷の、印字の擦れ凹みななど、素朴でクラシカルな風合いはなんとも魅力的ですが
本来は、線画を綺麗に見せるための印刷技術です。
点の集合ではなく、線で描かれる文字。
それらすべてを綺麗に印刷するのは、熟練の職人さんの技でもあります。
ボナミでは、そういった本来の美しい印字を目指しつつ、
作品やデザインの表現にも、活版印刷を取り入れていきたいと考えています。
はじめての活版印刷体験。
最初はプレスに力が入らず、印刷が擦れていたけど
触っていくうちに、すぐに上達します。
リズム(操作)に合わせ、機械音を奏でるアダナ。
ガチャンガチャン、ガチャンガチャン、
呼吸を合わせて「ズシッ」とプレス。
インキで手を汚しながらも、何度もチャレンジする子供たち。
自分で印刷した紙を手に取って、本当に楽しそう。
活字ホルダーは、活版印刷を手軽に楽しめるホルダータイプ。
ホルダーに活字を組み込んで、スタンプを押すように名刺や紙に印字することができます。
小さな活版印刷。
こどもたちは自分の名前を組んで「ひらがな名刺」を作りましたよ。
ボナミの製作(箔押しや空押しなど)にも使用する活字ホルダー。
小さくても無限の可能性を秘めた活版印刷機です。
自作カードを麻糸で結んで、はじめての手製本。
活字ホルダーで名前を入れて
世界に1冊、自分だけの本が出来上がりました。
アトリエお披露目にあたって、僕たちは少し緊張しました。
なにもないような、小さな港町に
聞こえるのは、海鳥と野良猫たちの声。
僕たちのアトリエはそこに、ぽつんと建つ古いアパートです。
お掃除や食事の準備。まだ数も少しだけの本を並べて、活版印刷のインキを練って。
みんなに楽しんでもらえるかしら、喜んでもらえるだろうかと。
進化することばかりを追いかけてきた時代があり
僕たちはそういう時代に生まれ育ちました。
変わらないことを恐れ、どこまでもどこまでも
もっと先へ、その先へと。
今、僕たちはそこから少し離れた場所で、見つめ直すことをしています。
待つということ。
変わらないということ。
ただじっと、静寂に耳を傾ける夜に、それを恐怖と感じないことに気づきます。
静かな町の夜にほんのり明かりは灯ります。
まるで夜間工場みたいに、機械音はなりつづけ
笑い声と笑顔が浮かぶ、
なんとも心地の良い夜でした。
Satoshi